抗菌薬各論①細胞壁合成阻害薬

抗菌薬の各論です。

今回は細胞壁合成阻害薬について解説していきます。

細胞壁合成阻害を主な作用機序とする抗菌薬はβラクタム系薬グリコペプチド系薬ホスホマイシンがあります。

細胞壁合成阻害薬

それぞれについて見ていきましょう。

βラクタム系薬

分子内にβラクタム環をもつ薬剤をβラクタム系薬と言います。

βラクタム環構造

これが細菌の細胞壁合成酵素、ペニシリン結合蛋白(PBP)に結合します。

これによって細菌の細胞壁の生合成を阻害します。

βラクタム環に隣接する環が5員環のものをペニシリン系6員環のものをセフェム系と呼びます。

また、隣接する5員環に二重結合があるものをペネム系、ないものをペナム系と分類します。

さらに、この隣接環のSの代わりにOが入るとオキサCが入るとカルバという接頭語をつけます。

隣接環がないものはモノバクタム系と呼びます。

βラクタム系薬の基本構造

βラクタム系薬は殺菌的に作用するものが多く、臨床現場では最もよく使用されています。

抗菌力は時間依存的であり、用法用量の設定はtime above MICを指標に決定します。

※time above MIC:最小発育阻止濃度(MIC)を超える時間

それぞれの系統について詳しく見てみましょう。

ペニシリン(PC)系薬

大きく分類するとグラム陽性球菌用PC耐性ブドウ球菌用広域PC薬に分けられます。

〇〇シリンという名前が特徴です。

広域PC薬はグラム陽性菌に対する効果を維持しつつグラム陰性菌にも有効です。

黄色ブドウ球菌やインフルエンザ菌はPCを分解する酵素(βラクタマーゼ)を産生する株があります。

これらを対象にβラクタマーゼ阻害薬を配合した薬剤もあります。

βラクタマーゼ阻害薬:クラブラン酸、スルバクタム、タゾバクタム等

分類特徴主な薬剤
ペニシリン系薬グラム陽性菌に対して有効
βラクタマーゼに不安定
ベンジルペニシリンカリウム
広域ペニシリン系薬グラム陽性菌・グラム陰性菌に有効
βラクタマーゼに不安定
アンピシリン
アモキシシリン
ピペラシリン(腸内細菌、緑膿菌に対しても強い抗菌活性)
βラクタマーゼ阻害薬配合剤βラクタマーゼ産生菌、嫌気性菌に
対しても強い抗菌活性
を有する
アンピシリン+スルバクタム
アモキシシリン+クラブラン酸
タゾバクタム+ピペラシリン

さらに詳しい解説は医學事始のこちらのページをご覧ください。

小児への使用

小児においてアモキシシリンは溶連菌感染症、肺炎球菌感染症の第一選択薬となります。

また、アンピシリンは腸球菌、B郡溶連菌、リステリアPC感受性肺炎球菌などの感染症の第一選択薬となります。

セフェム系薬

第一世代から第四世代までの四つに分類されます。

名前の中にセフが入っていることが特徴です。

第一世代はグラム陽性菌と一部のグラム陰性桿菌(大腸菌、プロテウス、肺炎桿菌など)に有効です。

第二世代はグラム陰性菌へのスペクトラムは広がるが、グラム陽性球菌への効果は低下します。

また、セファマイシン系薬はバクテロイデスなどの嫌気性菌にも有効です。

第三世代はグラム陰性菌に対してさらなるスペクトラムを持ちます。

肺炎球菌に対しては有効ですが、他のグラム陽性球菌に対する効果は更に低下しています。

さらに、緑膿菌に対して効果のある薬剤 (セフタジジム)も存在します。

第四世代はグラム陽性菌と緑膿菌を含むグラム陰性菌の双方に抗菌力を持ちます。

ただし、嫌気性菌、ESBL産生菌への抗菌活性はありません

※ESBL:基質特異性拡張型βラクタマーゼ

セフェム系役の世代と抗菌スペクトラム
セフェム系役の世代と抗菌スペクトラム
世代特徴主な薬剤
第一世代セフェムグラム陽性菌に対して強い抗菌活性セファゾリン
第二世代セフェムグラム陽性菌に加え、
腸内細菌に対しても抗菌活性
セフォチアム
セフメタゾール
フロモキセフ
第三世代セフェムグラム陰性菌に対する抗菌活性が強い
髄液への移行が良い薬剤もある
ブドウ球菌への活性は弱い
セフォタキシム
セフトリアキソン
セフタジジム
第四世代セフェムブドウ球菌を含むグラム陽性球菌、
緑膿菌を含むグラム陰性菌
対して強い抗菌活性
セフェピム
セフォゾプラン

さらに詳しい解説は医學事始のこちらのページをご覧ください。

小児への使用

小児において、第一世代セフェムはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)による蜂窩織炎、関節炎、骨髄炎、感受性のある大腸菌などによる尿路感染症に用いられます。

また、経口第三世代セフェムは国内で多用されるが、生物学的利用率(BA)が低く、適応疾患をよく考えむやみやたらに使用すべきではないと考えられます。

さらにピボキシル基を含む第三世代セフェムの使用はカルニチン欠乏による低血糖を誘発することもあります。

カルバペネム系薬

ブドウ球菌、肺炎球菌などのグラム陽性菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌などのグラム陰性菌、バクテロイデスなどの嫌気性菌に対して有効な抗菌薬です。

ESBLには安定ですが、メタロβラクタマーゼにより失活することに注意が必要です。

〇〇ペネムという名前が特徴です。

特徴主な薬剤
他のカルバペネム系薬に比べ、
グラム陽性菌に対する抗菌活性が強い
イミペネム/シラスタチン
パニペネム/ベタミプロン
グラム陰性菌に対する抗菌活性が強いメロペネム
ビアペネム
ドリペネム

ちなみに、シラスタチン、ベタミプロンには抗菌活性はなく、以下のような作用があります。

シラスタチン:イミペネムの不活化を抑制、腎毒性を軽減する作用を持つ。

ベタミプロン:パニペネムの腎皮質への取り込みを抑制して腎毒性を軽減する。

さらに詳しい解説は日経メディカルのこちらのページをご覧ください。

小児への使用

小児において、テビペネムピボキシルが経口剤として用いられます。

ただし、適応は耐性菌により他剤で効果が期待できない急性中耳炎、副鼻腔炎、肺炎のみとなっています。

モノバクタム系薬

グラム陰性菌に対して選択的に強い抗菌活性を示します。

グラム陽性菌に対する抗菌活性は示しません

特徴主な薬剤
緑膿菌、腸内細菌などの
グラム陰性菌に対してのみ抗菌活性を有する。
グラム陽性菌には無効
アズトレオナム

さらに詳しい解説は医學事始のこちらのページをご覧ください。

βラクタム系薬の副作用

一般的に重篤な副作用は少ないと言われています。

しかし、稀にアナフィラキシーショックなどのアレルギー様の副作用が見られます。

アレルギー反応による急性間質性腎炎、大量投与時の中枢神経症状(痙攣等)の報告もあります。

また、セフェム系薬では腎障害が問題となることもあります。

特に利尿薬、アミノグリコシド系薬との併用時には注意が必要です。

さらに、チオメチルテトラゾール基をもつ製剤(ラタモキセフ、セフメタゾールなど)では投与後一週間程度は飲酒によりアンタビュース作用として頭痛、動機、悪心・嘔吐、低血圧が見られることがあります。

また、チオメチルテトラゾール基はビタミンK代謝を阻害します。

そのため、肝臓でのプロトロンビン合成が低下し、出血時間が延長することがあります。

グリコペプチド系薬

バンコマイシンテイコプラニンが臨床現場で使用されています。

βラクタム系薬と同様、細胞壁合成阻害薬ですが、作用点が異なります。

βラクタム系薬はPBPそのものに結合して作用していました。

しかし、グリコペプチド系薬はPBPの基質(ペプチドグリカン前駆体のD-Ala-D-Ala部位)に結合します。

それによって酵素反応を阻害し、細菌の細胞壁合成が阻害されます。

βラクタム系薬同様に、時間依存型の抗菌薬です。

好気性、嫌気性問わずグラム陽性菌に対して有効です。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)にも良好な抗菌活性を示します。

そのため、重症MRSA感染症、偽膜性腸炎、重症ペニシリン耐性肺炎球菌感染症などの第一選択薬になります。

治療域を超える濃度では副作用が生じやすいのも特徴の一つです。

バンコマイシンは腸管からほとんど吸収されないので、腸管感染症に経口で使用されます。

特徴主な薬剤
MRSA、C.difficileなどのグラム陽性菌に有効
内服では吸収されないため腸管感染症に使用される
バンコマイシン
MRSAに有効
耐性化が起きにくい
テイコプラニン

さらに詳しい解説は日経メディカルのこちらのページをご覧ください。

グリコペプチド系薬の副作用

急速な静脈内投与によってヒスタミン遊離が引き起こされます。

その結果、顔面、頸部、体幹に紅斑やそう痒感、血圧低下が生じるred man(red neck)症候群が引き起こされることがあります。

この副作用は60分以上かけて緩徐に静注、又は抗ヒスタミン薬の前投与によって回避可能です。

また、急速投与に伴う副作用として、胸背部の疼痛と筋痙攣が起こるpain and spasm症候群も知られています。

聴力障害腎障害も重要な副作用です。

これらはアミノグリコシド系薬との併用時に出現頻度が高くなっています。

特に、聴力障害は血中濃度が80〜100μg/mL以上になった症例に多く発現し、不可逆性です。

そのため、腎機能低下患者、新生児・未熟児、高齢者、長期投与患者には特に注意が必要です。

また、定期的な血中濃度測定を行う必要もあります。

小児への使用

乳幼児では腎排泄の亢進により通常量(30〜60mg/kg/日)、8〜12時間おきでは十分にトラフ値が上昇しないことが多いです。

特に重症感染症ではトラフ値を高く設定する必要があり、高用量(60〜80mg/kg/日)、6時間おきの投与とします。

ホスホマイシン(FOM)

細胞質膜の能動輸送系によって菌体内へ取り込まれたあとに細胞壁合成の初期段階を阻害します。

細胞壁合成の初期段階を阻害するため、βラクタム系薬との交差耐性を示さないことが特徴です。

※交際耐性:薬物を長期投与した際、投与開始時と同量を与えてもはじめと同様の効果が得られなくなり、当初の効果を得るために投与量を増加する必要が生じる現象

また、低分子量、生体内で安定、血清蛋白への結合率が低い、分布容積が大きいという特徴を持つ。

さらに抗原性も低く、アレルギーなどの発現頻度が低いことも特徴です。

MRSAに対してβラクタム系薬との併用療法が有効と言われています。

また、アミノグリコシド系薬やシスプラチンなどの腎障害軽減作用も報告されています。

ただし、ホスミシンS(ホスホマイシンナトリウム)はNa含量が多く、心不全や腎障害患者への投与は注意が必要となります。

特徴主な薬剤
βラクタム系薬とは異なる作用機序を持つ
βラクタム系アレルギーを持つ患者にも使用可能
ホスホマイシンカルシウム
Na含量が多いため心不全、腎障害患者へ
大量投与する場合は要注意
ホスホマイシンナトリウム

まとめ

今回は細胞壁合成阻害薬について解説しました。

細胞壁合成阻害薬の分類

それぞれの系統の作用の特徴、セフェム系では世代による抗菌スペクトラムの違いを覚えておくとよいと思います。

練習問題

抗菌薬に関連する問題です。

細菌のリボソーム30Sサブユニットに結合して、タンパク質合成を阻害する抗菌薬はどれか

おまけ

私が実践していた勉強方法です。

抗菌薬に限らず勉強する際に少しでも参考なれば幸いです。

万人にオススメ!無駄を削いだ勉強方法

最後までご覧いただきありがとうございました。

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